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最高裁判所第三小法廷 昭和53年(行ツ)30号 判決 1978年7月11日

山口県萩市浜崎町一〇五番地

上告人

小池理義

右訴訟代理人弁護士

西田信義

山口県萩市唐樋三一番地

被上告人

萩税務署長 日出嶋恒夫

右指定代理人

竹本広一

右当事者間の広島高等裁判所昭和五〇年(行コ)第二号所得税の更正処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五二年一二月一日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人西田信義の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己 裁判官 服部高顕 裁判官 環昌一)

(昭和五三年(行ツ)第三〇五号 上告人 小池理義)

上告代理人西田信義の上告理由

原判決は事実認定を誤り、所得税法五一条の適用を誤った法令違背があり、この法令違背は原判決に影響を及ぼすことが明らかである。

一、上告人が訴外有限会社萩乳製品センター(以下センターという)に貸し付けた金八、八五二、〇二一円は、上告人の次に述べるような事業の遂行のために生じた貸付金、その他これに準ずる債権であって、税法上貸倒れ処理ができる。所得税基本通達五一-一〇の(2)「自己の製品の販売強化、企業合理化等のため、特約店、下請先等に貸し付けている貸付金」に該当すると思料され、右センターは下請先等と同一に解される。

以下、右事実関係について述べる。

二、上告人は萩市内において製材業、造園業、建売などの不動産業、乳製品製造販売業及び旅館業を経営しており、右乳製品製造販売業、旅館業については、上告人の全額出資の右センター及び有限会社浜荘を支配してこれをなしていたものである。

要するに、上告人の事業は前記の如く「製材業、造園業、建売などの不動産業、乳製品製造販売業及び旅館業」を含むこれら一括したもので構成されており、単に製材業、建売業といった個々的なものではなく、右事業活動全体が一個の事業体をなすものである。

そして、上告人は、右目的のため、全額出資した会社、右センター等を設立し、これを支配するものである。つまり、右会社の全持分を所有することによってその事業活動をなしているものである。換言すれば、上告人のいわゆる持株会社に相当し、右株式を多数所有することによりこれらを支配し、各事業を遂行しているものというべきである。上告人の右一連の事業は密接不可分の関係にあり、相互に依存しているものである。

従って、上告人は、右のような事業形態のもとに、右センターに対し「毎年数十回にわたり、且つ、多額の金銭の貸借等」が継続してなされてきたものであり、これは単なる個人的貸借ではなく、上告人の前記事業体の営業活動のために一環としてなされたものであり、正に上告人の経済的活動である。

三、上告人のなす製材業については営業担当の従業員はおらず、専ら、その営業活動、即ち、販路拡張、配達及び集金等の業務は右センターのセールスマン一五名余りをもってこれをなし、右センターの従業員を通じてなす製材等の売上げは全体の二割程度を占めていた。その販路は萩市、山口市、阿武郡であり、得意先も数百軒あった。

これらの事実よりして、右センターが倒産するようなことがあれば右製材業等の営業にも支障をきたすことは明らかであり、右センターが銀行取引停止処分を受ければ上告人のその他の事業も事実上その営業が不可能になるので、製材業の資金をもって前記のような貸借をなしたものである。

上告人は右センターに対して、製材所の資金以外に同人の経営する有限会社浜荘の資金も貸し付けており、この貸付も長年月、多数回にわたっており、この貸付残については、右浜荘の貸倒損として被上告人も是認している。

右浜荘については貸倒れを認めながら、製材業についてはその貸倒れを認めないのは不当と言わなければならない。即ち、右浜荘は有限会社組織であるが、その実態は上告人の経営といえるし、反面、製材所の営業資金をもって長年月、多数回右センターに貸し付けた本件貸付金残金八、八五二、〇二一円もその実体は同一と言わなければならない。

四、被上告人は、右の点につきあまりにも製材業とか、金融業とかいう一般的業種にこだわり、硬直な解釈をなすものであり、個人事業においても各種各様の事業形態もあり得るものであって、これを無視するものである。

所得税の基本通達の制定の趣旨、同前文及び実質課税の原則等よりして、被上告人の本件貸付金の損金不算入は違法であることは明らかである。

右通達の前文によれば、画一的な基準を設けることを避け個々の事案に妥当する弾力的運営を期することとし、また、この具体的適用に当たっては法令の規定の趣旨、制度の背景のみならず条理、社会通念をも勘案しつつ、個々の具体的事案に妥当する処理を図るよう努められたいとなしていることより、本件貸付金が前述のごとく上告人の事業遂行のためなされたものとみるのが通達の趣旨に則するものであり、被上告人の前記主張は全く社会通念及び条理を無視した一方的な解釈と言わなければならない。

五、上告人は、昭和四一年より同四三年までの間萩税務署職員金山らの指導に基づき、右貸付金の利息を上告人の事業所得の雑収入として計上しており、右税務署もこれを是認し課税してきたものである。

従って、上告人は、右貸付金はその事業遂行のためのものとし、その利息も事業所得としたものであるにも拘らず、被上告人はこれを改め、上告人の事業に関係ない貸付金と看做し本件更正処分をなしたものであるが、それは明らかに信義則ないし禁反言の法則に反するものである。

以上

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